「夢十夜」夏目漱石 (パロル舎) 画・金井田英津子


蒸し暑い今宵

ご紹介しますのは、文豪夏目漱石の「夢十夜」。
少し背筋がヒンヤリとするような物語です。

「坊ちゃん」しか知らない方は、少し驚かれるかもしれませんね。


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夢十夜より


さて、突然ですが今宵ははじめに。
私の昔話に、ちょっとお付き合いいただけますか?



小学生の私は視力検査の結果が悪く、眼科に通うことになりました。
お向かいの幼なじみ、Kちゃん姉妹も一緒でした。同じ小学校に通っていて、同じタイミングで通院することになったのです。



流行っていた眼科で、診察まで長いこと待っていました。その間に三人でふざけたり、待合室の本を読んだりしました。

今ではあり得ないのですが、大人のHな漫画雑誌も積んであったのです。それは小学生の自分にはとても刺激的でした。大人の人にときどき注意されながらも、コッソリ読んでいたのです。


そんなこと以外に、強烈な影を心に残した漫画がありました。


確か台詞は一言もなかった。独白もです。淡々とコマ割りされた絵だけが続いていきます。小さな女の子が川で溺れて流されています。
釣り人がそれを見つけて、竿を振ったのだと思います。(ちょっと定かでない)その後、川から引き上げられるのですが。




釣り人の手に下げた網の中で、女の子が網を手で掴み、口と目を見開いている。
それが1ページ、一コマで描かれていて、それで終わりでした。



なんだ、これ




その一言から胸に言いようのない「怖さ」「恐れ」「不条理」に近い気配を感じとり、みるみるうちに心に広がって行くようでした。それは「狂言」の世界にも通じる感覚かもしれません。


パッと手放される、取り返しのつかないラストに、現実の世界と通じている心の安定は壊され、投げ出された感情は言葉を失うのです。


当時に小学生であった私は、それがあり得ないことであると思いながら、自分がその網の中の女の子になってしまったら?とときどき背筋がゾッとするのを覚えました。今でもそのコマの画は覚えているのですが、後に誰の作であったのかわからないままです。







このパロル舎から出された「夢十夜」を見たとき、昔のあの眼科の待合室で見た底知れぬ不安や怖さを思い出しました。少しだけのぞき見させていますが、金井田英津子さんの画力にもよるものが大きいです。



その内容から解釈がわかれるとこもある「夢十夜」。すべての人が同じように、きちんと理解できて安心できるような、そんなことばかりではないのです、世の中は。


現実に在る酷い出来事に出会う前に、世界はあらゆる場所に「魑魅魍魎」を隠しているのだと学ぶ機会がどんどんと奪われていっている気がするのですよ。「安全」「安心」を確保しようとする時代とともに。


なぜでしょうね、そんな気がしてならないのです。





あなたには、この夜がどんな風に見えますか。






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夢十夜より







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